18才の自分へ

明日なにをしようか、考えていると思う。実をいうと、君が明日なにをするのかで、君が十年後になにをしているのか、だいぶ決まってしまう。こんなことを知ると、深刻になってかえって愚かな判断をすることもあるので、気にしないでもいいけれども。雲先生に楽しいことをすればいいと言われた通りだ。

君は、わかってしまえば単純なような話が好きなので、米谷先生の量子論の講義を眺めてよくわからないと思い、アイシャムの本を見てよくわからないと思い、そのままにしてしまったけれども、真面目な物性物理の人になる気はないのか、一度よく考えてみるといい。真面目と言ったのは、計算機と比べての話で、だいたい、電気を食べて熱を出している箱の中にいると、何かが保存するという気もしないし、どこに原則を求めるのかで意見が一致することもない。

君は、あるとき、立花隆事務所の本を運ぶ手伝いをして、書棚の夥しい昭和史の本を見て、北一輝とはどういう人であったのかなあと思ったが、そうしたら、その場でしゃがみこんででも、読んでみるとよかったと思う。

ところで君は、あるとき高校の数学の教師に何をするのか聞かれて、「研究者になるのかなああ」とか言って窓の外を見て、「いや、研究者じゃなくてもいいんだけれども」なんて言われていた。君の「なるのかなああ」は長く尾を引くのだけれども、君はうすうす気付いていて、君は北の窓から小金井の方を見ていたつもりだったが、つくばに行くことになった。そのあと外国に行くことになるのは、知らなかったであろう。

さて君は、USの大学には行かずに日本の大学に通っている。それで良かったのか悪かったのか、よくわからない。流行が激しい分野では、田舎で学問をやるのにも、思うままにじっくりやれるという長所がある。君はその後、ちょっとだけUSに行くけれど、極めて短期のお客さんだったので、どういうところなのか、あまり洞察が無い。もっと言うと、君は日本がどういうところであるのかについても、あまり洞察がなくて、おかげで土地をうつっても、どうにか暮らしてしまう。もちろん、初めて一人で出掛けた外国の、ダカールの空港を出て、炎天の下で途方に暮れることはあったが。